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「2023年版ものづくり白書」に見る「課題」とは?掲載日:2023/07/25

毎年このコラムでも取り上げていますが、2023年6月2日に経済産業省ウエブサイトで「2023年版ものづくり白書」が公開されました。そこでは製造業に関わる変化と、それに対応する重要な取り組みなどが示され、そこから読み取れる日本のものづくりの「課題」とは…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

2023年版ものづくり白書と昨年版からの変化

先回のコラムの後も各地で豪雨災害が起き、被害に遭われた地域の皆様にはこの場を借りてお見舞い申し上げます。一方関東含む地域では記録的な酷暑となり、梅雨らしい天気の日がほとんど無いまま突然真夏がやってきたようで、近所の蝉も慌てて出てきて一気に鳴きだした感じです。また残念ながらこの夏は、コロナだけでない感染症に対応しながらの、すっきりしない夏になりそうです。

さて、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、2023年6月2日に経済産業省ウエブサイトで「2023年版ものづくり白書」が公開されました。この白書についてはこのコラムで毎年ご紹介し、取り上げてきました(昨年はこちら)。これまで同様、経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で作成し、以下のURLからPDFファイルでダウンロードすることができます。

2023年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/all.pdf
本文は250ページで読むのも大変なので、下記の概要版を読まれることをお勧めします。
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/pdf/gaiyo.pdf

2022年度版については、「なぜ?」と思えるような内容の変化がいくつか見られたことを書きましたが、2023年度概要版では、まず昨年無くなってしまった「総論」の代わりに「2023年版ものづくり白書のメッセージ」が最初に示され、そこは良かった点として挙げたいと思います。

メッセージの概要は、3つの製造業に関わる変化と、それに対応する3つの重要な取り組みが示され、そのまとめとして下記の提言が示されていました。

  • ・現場の強みを活かしつつ、サプライチェーンの最適化に取り組み、競争力強化を図ることが必要。
  • ・GX(筆者注:グリーン トランスフォーメーション)の実現にも不可欠となる、DX(筆者注:デジタル トランスフォーメーション)に向けた投資の拡大・イノベーションの推進により、生産性向上・利益の増加につなげ、所得への還元を実現する好循環を創出することが重要。

また、「日本と海外の状況の違い」として下記の対比を示していました。

日本 海外
日本は現場の高度なオペレーション・熟練技能者の存在によって、現場の部分最適・高い生産性に強みを持つ。 海外の先進企業は、データ連携や生産技術のデジタル化・標準化に強みを持ち、企業の枠を越えた最適化を実現。
一方で、企業間のデータ連携・可視化の取組ができている製造事業者は2割程度。 欧州では、サプライチェーンの最適化の実現を目的とする、製造事業者のデータ連携基盤が発足。

「海外」というのが広すぎてあまり良い比較とは思いませんし、海外と言っても地域、国でかなり異なるとは思いますが、おそらくここでは「ドイツを中心とした欧州」と読み替えても良いかと思います。また上記に出てくるキーワードの中で、3Dプリンティングが関係すると思われるのが、「サプライチェーンの最適化」「DXに向けた投資の拡大・イノベーションの推進」「データ連携」「生産技術のデジタル化」と考えていて、日本の製造企業でも、3Dプリンティングの導入活用を進めている企業はキーワードのどれかの取り組みを進めている傾向があるように見ています。あくまで筆者の立場からの見方なので、実際それぞれの製造企業の中におられる方々がものづくり白書で示す現状と課題について、「その通り」「実状とは違う」など、捉え方は異なるのは当然だと思いますが、高い視点から企業全体や職場を見て、これからどうしていくかを考える参考にはなると思います。

次に昨年版との比較として、昨年のコラムでも書きましたが、全体版PDFの中で単語「3D」や「3D プリンタ」がどのくらい出てくるかを検索してみました。

「3D」 2021年度版=20個 → 2022年度版=3個 → 2023年度版=25個
「3D プリンタ」 2021年度版=4個 → 2022年度版=1個 → 2023年度版=12個

一見2022年に減った単語数は再び増えてはいますが、(株)SUN METALON社を紹介したコラムの中の単語11個が含まれているので、全体としては実際増えているとは言えません。もちろんこれだけから言えることではありませんが、かつてのような3Dに関する注目度や重要度はこの白書では高まってはいないようで、実際の現場の感覚とは少しズレがあるようで残念ですが、コラムで紹介されている、日本科学未来館での3Dゲルプリンタで制作された研究成果展示・体験イベントや、ラティス・テクノロジー(株)様の設計や製造といった製造工程間でシームレスな3Dデータ連携を実現するツールの技術開発の話題などは、今後の3Dプリンティング発展につながる話題として良かったと思います。

BEVに見る日本のものづくりの課題

ものづくり白書の統計からは、エンジン・HV自動車への依存度が依然高いこと、中国から国内への回帰増加と中国以外ASEAN諸国への移転増加が起き、また原材料価格高騰を製品販売価格に十分転嫁できていない、国内製造維持には人手不足や技能伝承が課題という傾向が見えてきます。

先日全国一般新聞で日本の電気自動車(BEV)産業の現状についての特集記事を読みました。概要としては世界販売台数の約6割が中国、2割が欧州、1割がアメリカ、日本は1%以下。メーカーシェアはテスラ(米)が約18%、BYD(中)が猛追し約12%、以下米欧中のメーカーが続き、ホンダ、トヨタが2%台という現状で、特に4月の上海モーターショウでは中欧メーカーが1500台を展示し、訪れた日本メーカートップが、中国車の性能向上に危機感を感じたコメントを出したとのこと。現場の声としても、「日本はエンジン開発部署の声が大きく、斬新なEVが作れない」「EVは儲からないので、出来れば作りたくない意識」という過去から「EVは本気になればいつでも作れる感覚だったが、今は中国に対する危機感であふれている」「人もお金もどんどんEVに回している」など、かなり変化していることが伺えました。

ものづくり白書の単語検索では、「電気自動車」=14個と、思ったより少ないのも上記の現状を映しているのかもしれません。また、日米欧中の「強み」の分析では、下記のようにまとめています。

「我が国製造業は、部素材系の製品に強みを持つが、売上高が大きい最終製品については、自動車以外の分野では、米国、欧州、中国と比べると、売上高、世界シェアともに小さく、品目も少ないという特徴があることが分かる。」

内燃機関自動車の1台当たり部品数=3万点に対しBEVは2万点と言われ、1万点減るだけでなく、2万点の中身も材料や形状が異なるものも含まれることを考えれば、部素材系に強い日本の製造業への影響は言うまでもなく大きいと思われる一方、海外製3Dプリンターにも多くの日本製部品が使われているように、海外製のBEVに部素材を販売する日本企業もあるでしょうし、ハイブリッドも含めすぐになくなるわけでもありませんが、個々の企業で何かの対応が求められるのは避けられないと思います。

こじつけかもしれませんが、BEV開発製造をリードする地域と3Dプリンティングの活用が進んでいる地域は近いとも言えます。また3Dプリンティングが中国BEVの開発改良の速さにどれほど貢献しているかはわかりませんが、貢献していても不思議ではありませんし、もちろん土台となるデジタルエンジニアリングの活用があってのことです。一方、デジタルエンジニアリングと3Dプリンティングのニーズや投資対効果は、完成品開発の方が単品部素材開発より大きいことも海外と日本の3Dプリンティング活用の違いの要因かもしれませんが、BEV含め、完成品開発製造で日本が世界と競争していくには、これまでパネルディスプレイ、半導体、携帯電話などの盛衰から得た経験もあるはずで、それを活かしながら、上記のものづくり白書の「メッセージ」をどう実行していくかによるのではないかと考えます。みなさんはどう考えるでしょうか?

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