Infinite Ideas(ユーザ事例)

限りないアイデアで、新しいビジネスの価値を創造。あらゆる問題に対して、アイデアを柔軟に変化させて答えを導き出す
MSYS(丸紅情報システムズ)

東北大学 導入事例

東北大学 山中将氏

2008年3月、
1つの取り組みが大きなスポットライトを浴びた。
「科学教育に専念し、著しい成果を挙げている」
と高い評価を得て、平成基礎科学財団の
「第4回小柴昌俊科学教育賞奨励賞」を受賞したのである。
受賞したのは、東北大学と仙台市教育委員会が主催する
『子ども科学キャンパス』である。
東北大学の山中准教授は語る。
「数学では『1+1=2』と明快な答えが存在しますが、
私たちがめざしているものはそれとはまったく違うものです」
「杜の都」発の“新教育”を取材した。


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3次元CADなどのデザインデータを、自動的に立体造形するシステム。ABS樹脂を造形材として使用し、その特性を活かしてさまざまな機能テストにも対応します。 コンパクトな筐体でオフィス環境でも利用できる60dB以下の静寂性を備え、デザイナーや設計者がネットワークプリンタを利用する感覚で、3次元モデルをデスクサイドでも出力できる3Dプリンターです。

Dimension
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あくまでもオリジナルのテーマを

サイクルライフの「楽しみ」のためにふだんは静かなキャンパスに、子供たちのにぎやかな声がこだまする。
2008年7月30~31日、東北大学創造工学センター、別名『発明工房』に小学生が集っていた。
イベントの名は『子ども科学キャンパス』。仙台市内に通っている小学6年生が対象で、2001年にスタートして以来、今回で8回目となる。
定員は1日90名、2日間で180名。全6コースのうち2コースを午前と午後で体験できるというプログラムだ。年々口コミで評判が広まり、驚くべき数の応募があるという。年によっては1000人近くにも達し、冗談まじりだが「東北大学に入るより難しい」という声も聞かれた。そのため当初は、小学5,6年生が対象で夏休み1回だけの開催だったものを、3年前から参加資格を小学6年生に限定、2年前からは夏と秋の年2回開催している。しかし、今もって倍率は3~4倍という狭き門である。
「人気の秘密はオリジナルのテーマにこだわっていることにあります。例えば、ペットボトルのロケットを飛ばすというテーマは科学教室の定番ですが、ここでは取り上げません。あくまでも東北大学でしかできないオリジナルのテーマにこだわっています」
子供科学キャンパスでは、「机の上で飛行機雲を作ってみよう」「温度によって変わる不思議な磁力の力」「色と光で遊ぶ<かたち>の世界」「『いもの』ってなに?作って流す『いもの』体験」などのコースがあり、山中准教授は「コンピュータでかっこいいコマ(独楽)を作ろう」というコースを担当している。3D CADソフトを使って自分の気に入ったコマを設計し、3Dプリンターを使って実際にそのコマを造形するというものだ。
そして、オリジナルのテーマのほかに一般的な科学教室とは大きく異なっている点がもう1つある。『子ども科学キャンパス』が実施された場所は創造工学センター、別名『発明工房』と呼ばれている。実はこの名称にこそ、イベントの人気の“源泉”ともなっている、東北大学工学部の人材育成への思いが込められているのである。


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無から有を生む力を

無から有を生む力を

創造工学センターができたのは2001年のこと。東北大学工学部では、それ以前の1996年から、入学したばかりの大学1年生を対象に、『創造工学研修』というプログラムを実施していた。これは「答えの準備されていない課題」について、自ら問題を発見し解決することが目的で、参加した多くの学生より好評を博してきた。創造工学センターは、その創造工学研修の支援と地域社会への知的サービスを目的として設立された。2001年、別名『発明工房』の誕生である。
「設立経緯が創造工学研修だったことからもわかるように、『1+1=2』のように答えが明確に存在する問題を解くのではなく、答えのない『解なき解』の追求に主眼を置いています。『無から有を生む力』を育むということでしょうか。工学という学問では、ものを生み出す創造力が必要不可欠。このセンターは、創造力を養っていく目的で作られたのです。」
センター内には、デジタルアトリエ、情報処理室、工作室、化学実験室など数多くの部屋があり、3次元レーザースキャナ、デジタルマイクロスコープ、高精細画像フィルムシステム、3次元NC加工機など、最先端の設備を取り揃えている。学生たちは講習を受講し資格を得ると、自由に設備を使うことができる。
そして、こうした創造力を重視する教育姿勢は『子ども科学キャンパス』においても受け継がれ、それが高い人気の秘密にもなっていたのだ。
だが山中准教授は、「創造力を養うための取り組みとは、言葉で言うほど簡単なことではないのです。」と語る。


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創造力養成に欠かせない「3つの柱」

創造力養成に欠かせない「3つの柱」

山中准教授の専門は機械システムの設計である。創造工学センターが設立される際、最先端の設備を導入し、創造力を養う教育に役立てたいと考えた。それが3D CADと3Dプリンターである。
「思いを形にする3D CADの設計と、設計したデータを形にする3Dプリンターの試作があれば、何かを創造させることができるだろうとシンプルに思っていました。そこで、学生たちに『自由に何か作ってみたら』と任せてみたのです。ところが彼らは、あてもなく粘土をこねて遊んでいるような状態になってしまい、成果がまったく出なかった。道具が揃えば、自然に創造力を発揮してくれるほど単純なことではなかったのです」
山中准教授は、どうすれば学生たちが創造力を発揮してくれるかを真剣に考え、1つの課題を与えた。
「できるだけ丈夫で軽いフックをつくるというテーマです。まず3D CADでフックを設計し、その後、解析ソフトウェアで応力の分布などを解析、その結果を基に軽量化のための設計変更を繰り返す。コンピュータ上で満足できる結果が得られた段階で、試作モデルを3Dプリンターで造形、ABS樹脂で造形されたフックの先端に錘を付けてその強度を確かめました。これをコンテスト形式で行いました。学生たちは課題に対して真剣に取り組み、独自に改良を重ねることで強くて軽いフックが次々と生み出されたのです」
その結果、山中准教授は創造力を養うためのポイントは何かに気づく。
「1つは『教えたい学問は何か』を明確にすること。フックの場合の目的は材料力学の基礎を教えたいということです。課題の背景にはそうした理論があることを知らせておけば、学生たちは自然にそれを意識して学んでいきます。2つ目は『解析』です。設計したものを解析することで問題点に気づき、改善への意欲がわいてきます。そして3つ目が『物理現象の確認』。コンピュータ上だけで完結するのではなく、実際に試作してみて、成果物が狙い通りのスペックなのかどうかを確認させる。それによって、さらなる改善の意欲や、うまくいけば達成感につながります。この3つがうまく相乗的に作用すれば、効果的に創造させることができると実感したのです」
そして『子ども科学キャンパス』のプログラムにも、この体験が活かされることになる。


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回るコマ、回らないコマ

回るコマ、回らないコマ

山中准教授が担当のコマづくりのコースは、最初に2種類の小さなひねりゴマが渡される。
「ちょっと回してみてください」
軸となる竹ひごを指でひねってコマを回す小学生たち。きれいに回るものもあるが、何度回してみても、横になってコロコロと転げ落ちてしまうものもある。次にボール紙と竹ひごが登場する。
「ハサミで好きな形に切って、重心だと思われるところに竹ひごを挿して回してみてください」
丸や四角など思い思いの形にボール紙を切っていく小学生。千枚通しで穴を空け、竹ひごを挿して回す。やはり形に関係なく、回るものと回らないものがある。
「あれぇ~、おかしいな」
「実は最初に渡した2種類のコマは、1つは竹ひごでできた軸が、コマ本体の真ん中である重心を通るコマで、もう1つは軸と重心が少しずれているコマだったんです。回らなかったのは重心がずれているコマで、コマは軸が重心を通っているものしか回らないんです」
「へー」と感心したような声が出る。
導入部分で、まず『重心』という概念を実体験を通じて教える。そのあと小学生たちはパソコンの画面に向かい、3D CADを駆使して、自分の気に入った形のコマを創造していくことになる。
「まずは、コマの絵を紙に描かせることがポイントです。そうすることでイメージを確認させて、教える側も『こうしたらいい』と具体的なアドバイスができるからです」
全体で7~8名、生徒2~3人に一人の割合でスタッフがつき、3D CADの使い方を教えていく。3D CADの操作を教えるのが目的ではないため、使える機能は最小限にしてある。
クワガタムシ、猫、ウサギ、将棋の駒、宇宙人のような形など、小学生たちはありとあらゆる形のものをモニタ上に自由に描いていく。そして、3D CADで平面を立体にしたところで重心を求める。3D CADの機能で自動的に重心を知ることができるが、重心に軸を通せないなど、コマに適さない形を描いた小学生は、設計のやり直しが必要になる。
「あ~、これは形を変えないとなぁ」と独り言をつぶやく小学生。
「参加者15人分のコマを時間内に造形できないため、後日造形したコマを郵送していますが、どの参加者も到着を楽しみにしているようです」
そして山中准教授は、創造力を養う教育に欠かせない1つの道具について語り出す。


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「完成する体験」が、次の創造力を生む

「完成する体験」が、次の創造力を生む

「こうした取り組みをしていると、『3D CADを導入したいのですが』といった相談を受けることがよくあります。その時には必ず『3D CADの導入数を削ってでも、3Dプリンターを買った方がいいですよ』と伝えています。例えば、小学生向けのコマにしても、モニタ上だけで『はい、できました』というだけでは何の面白みも感動もありません。それが実際に形になって回せることで喜びが生まれる。これは創造力の養成教育において、非常に重要な経験なんです」
山中准教授は数年前から大学4年生と大学院生向けに「時計製作」の課題を与えている。長針と短針のスタイルが従来とは異なる時計をつくるというもので、制作期間が4ヶ月ほどの短い期間しかない。目的と仕様は最初に説明するが、あとは学生たちに自由につくらせている。
「機械部品の3D CADデータは部品会社のホームページからダウンロードしてもよいことにしましたが、それでも部品の製作時間を考慮するとまったく時間が足りないんです。それが、3Dプリンターを使用すれば、3D CADデータからダイレクトに造形できますので、製作時間を大幅に省略することができます。期間中に『形にする』という貴重な経験にたどり着ける。その達成感が経験となり、次の創造力の源にもなると思います」
家に完成したコマが届くと、小学生たちはきっとそれを回すだろう。すーっときれいにコマが回ったとしよう。それを見て家族にこう言うに違いない。
「コマはね、軸が重心を通っているから回るんだよ」
「学問に裏打ちされた創造力」。「杜の都」から、いまはまだ小さいが、確かな“力”をもった人材が、生まれようとしている。


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