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3Dプリンティングの「良い事例」とは?掲載日:2023/12/06

3Dプリンティングの話をすると、よく「事例」の話題になります。展示会、セミナー、ネット上でもとても多くの事例を目にする一方、特に日本では「事例が少ない」「もっと良い事例はないか?」との声もよく聞きます。この矛盾はなぜ起こるか、「良い事例」とは何かを考えてみると…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

九州ものづくりワールドに出展しました

今年は特に気候と実際のカレンダーがずれていた感じというのもありますが、ある日突然師走に突入した気がしています。忘年会も特に制限なく出来るのは久しぶりだと思いますが、形を変えたり、そもそもやらない、逆に豪華にという例もあるそうで、もうすでに古くなって聞かれなくなった「ニューノーマル」な年末年始の元年になるのかもしれません。

さて、前回のコラムでお知らせしたとおり、11月末に弊社丸紅情報システムズ株式会社は「九州ものづくりワールド 設計・製造ソリューション展」に出展し、筆者も参加してきました。九州も福岡もコロナ以後初めて行きましたが、海外観光客も多く、一見街の感じには変わりがなく、食べ物も焼酎も安くておいしいのですが、何となく前より展示会場も街も「大人しい」ような気がしました。自分が歳を取ったからかもしれませんし、東京より寒かったからかもしれませんが、まだ「戻り切れていない」こともあると思いました。

ブースではおそらく九州で初めてStratasys Origin OneやDesktop Metal Studioシステムの実機展示をしたことで、「知らなかった」という声も聞かれました。
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また新しい取扱商品である、拡張現実と仮想現実でエンジニアリング ワークフローを改善する「Hololight Space」の体験展示を行いました。
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上の写真は筆者が体験している様子ですが、写真で見えているのはStratasys FDMプリンターで作った実物大の模型で、それと同時に現物はない車体の3次元形状を重ね合わせて見ながら、実際の姿勢で作業性を確認したり、体験したりすることが出来るシステムです。メタバースのような仮想空間でデジタル3Dデータにより形状や作業の評価体験や、実際にはその場にいない複数の人が同じモデルを見ながら話し合ったりすることも出来るのですが、一部は触ることもできる3Dプリント現物模型を併用することで、まだ実部品が無い段階で質の高い評価が出来るという展示で、興味を示され体験される来場者の方も多くいらっしゃいました。このような現物仮想融合の試作・評価は、いわゆる製造DXのひとつの新しい活用ツールになっていくと思います。

3Dプリンティングの「良い事例」とは?

上記のような展示会でも、会場セミナー、ウエビナー、ネットニュース上でも、これまでも今でもとても多くの3Dプリンティングを活用した「事例」を目にしたり聞いたりすることが出来ました。例えば弊社丸紅情報システムズ株式会社のウエブサイトをとってみても、こちらのページのように、様々な分野の多数の事例を掲載公開しています。

また別の例として、11月28日に「2023年度AM研究会 第6回委員会」が大阪大学中之島センターで開催され、筆者も参加しましたが、そこでもアルミダイカスト量産用に、最適冷却水管設計と金属3Dプリンターで作られた金型と効果、失敗も含めた事例や、今シーズンも実際に走ったF1レーシングカーのパワーユニット部品として金属3Dプリンターで作られた部品と効果と、実際に起きた不具合と対策の具体的な事例の紹介があり、日本でもこれまではなかなか公表されなかった事例が出てくるようにはなってきていると思います。

一方、これもまた良く聞かれるのが、特に日本では「事例が少ない」「もっと良い事例はないか?」との声です。この矛盾はなぜ起こるか、また多くの方が望む「良い事例」とは何かを考えてみたいと思います。

まず、事例が少ない背景として、事例を提供しない方の「理由」には、次のようなことがあると想像しています。

・3Dプリンターを使った実際の効果、成果、利益が出た例があっても、サプライチェーン上流の「お客様」の機密保持義務や、公開許可を得る手続きの難しさ、工数から公表したくないし、得られる利益もない。

・高額な3Dプリンターに投資し、多くの人と時間とお金を使って開発、成果を得た例を、無償、有償でも公開すれば他社に容易に真似され、損はあっても利はない。逆に競合になれば大きな損失になる。

・損得は別にしても、自社の事例は自社特有の例である、もしくは大した技術でもないので、公表しても他の人の参考にならないのではないか?

どれもその通りだと思いますし、ましてや他から強制されて公開する理由はどこにもないと思います。一方で、海外の企業によく見られたり、軍組織の方からも聞かれたりすることですが、事例を公表することにより自前で解決できていない課題解決や、その事例をさらに良くするためのアイデア、技術、人材を得ることが出来る「見返り」が大きいので公開する、という「損して得取れ」が背景にあることが多いようです。つまり、特に3Dプリンティングで実用部品を製造、利益を出すには、自前だけでは難しい、もしくは逆に工数や時間がかかりすぎる「現実」を受け入れ、事例を利用して社外協力を得て解決すると考えれば、上記の損ばかりではないと思います。もう一つ言えば、多くの成功事例では、企画設計から品質管理までヒトが関わる要因が多く、簡単に真似出来るケースは少ないと思います。

次に事例を見る側の意識や捉え方によって、事例の良し悪しは変わると考えています。

これも前回のコラムでお知らせした、12月1日のJAMMオンラインイベントでも、石川県と近県企業によるAMコンソーシアムと石川県工業試験場の方から、研究開発し、世界的にも例を見ない精密金属DEDプリンターと優れた活用事例が紹介されました。それ以上に良いキーワードを示していただきました。それは「自分ごと」です。例えば国内外の多くの成功事例は、航空宇宙部品だったり、海外の例だったりすることが多く、多くの日本の製造企業の方には「自分には関係がない」ものが多いとおっしゃっていました。確かにその通りだと思いますし、その点では「事例が少ない」「もっと良い事例はないか?」となるのは当然です。一方で、3Dプリンティングは、万国万人共通の課題より、個別で、狭くて小さい課題解決に適していること、また非常に幅広い産業分野で使われるので、なかなか自分の製造や課題と全く同じ条件で使われることが少ないことが「事例が少ない」一因だと思います。

一方で、自分から遠そうな事例でも、その背景にある「解決しようとした課題」や、成功に至る手順や、抵抗、失敗を乗り越えた方法など、意外と「自分ごと」に置き換えて読んでみると、「参考になる良い事例」になる場合も多いと考えています。

一例を挙げますと、最近ストラタシスジャパン社が作成公開した、株式会社トライテック様の下の事例動画は、新規事業として医療機器の「硬性内視鏡洗浄治具」の製造に取り組まれた事例ですが、

このような医療機器は自社とは関係ない、認可取得が大変で、自社には出来ないと「他人ごと」と見ればその通りですが、下記の例のような観点で「自分ごと」に置き換えてみればどうでしょうか?

・経営者自身が主業と違う医療分野のイベントにも出向き、「具体的困りごと」を知ったきっかけで、新しい製品と製造ビジネス開発にチャレンジし始めた。

自分ごとに置き換え→主業の将来成長性を考えた時、主業が良い間に副となる事業を開発しておきたいという課題は自社にも無いか?また販売先は主業と違う分野でも「製造」が解決する可能性は無いか?

・自社経験知識がない樹脂成形の製品開発であったものの、射出成形から始めたが、技術的課題、限界に直面し、開発に長年かかった。

自分ごとに置き換え→主業の製造技術と違う分野でも、社内の設計製造できる人材、導入済みの3DCADは活用できるのでは?「量産するから射出成形」という固定観念にとらわれていないか?

・適するであろう3Dプリンターが発売されたのを知り、メーカーの支援も得て形状・材料の課題が解決し、試作評価サイクルも速まって、早期に量産製造体制を整えることが出来た。

自分ごとに置き換え→長年苦労した加工法にこだわらず、広く情報を集め、適する3Dプリンターや材料を探せているか?3Dプリンティングや形状設計技術習得を自前だけの開発にこだわって、時間と工数がかかりすぎていないか?社外の有識者と協働することは自社の課題解決に有効か?自社で持っている人材や製造技術があるからこそ、3Dプリンティングの出来る出来ない、を早く見極め、他社より早く有効に使える可能性は無いか?

実はこの動画と別のウエビナーでのインタビューで、社長は「医療機器および医療機器製造販売の認可取得についても、早くから社外専門家の支援を受け、比較的早く出来た」「国内だけでなく海外での販売にも取り組む」とおっしゃっていました。これらも「自分ごと」課題解決のヒントになるかもしれません。
このように、「良い事例」とは、公表する方にも見る人にもプラスになる、または万人に良い事例は無く、「自分ごと」として見て役に立てば「良い事例」と言え、そうすれば世の中には良い事例がたくさんあるのではないでしょうか?

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