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MBDと3Dプリンティングに共通する効能と課題とは?掲載日:2023/10/30

先週名古屋で開催された自動車製造に関する展示会に出展し、筆者も参加しました。そこでの展示や拝聴した講演から、MBD(モデルベース開発 Model Based Development)の効能と課題には、3Dプリンティングに共通するものがあることがわかりました。それは…

筆者紹介

丸岡 浩幸

丸紅情報システムズ株式会社 製造ソリューション事業本部モデリング技術部アプリケーション推進課スペシャリスト。Stratasys樹脂3Dプリンター、DesktopMetal金属3Dプリンターの国内外の活用情報収集発信、より良い活用方法提案、開発業務を主に担当。

名古屋での展示会に出展しました

前回のコラムでお伝えしました、オートモーティブワールド 第6回[名古屋]自動車部品&加工EXPOに2023年10月25日(水)~2023年10月27日(金)に出展し、筆者も参加してきました。ご来場いただきました皆様にはお礼申し上げます。ありがとうございました。

Stratasys社 3Dプリンター FDM方式F170インクジェット方式マルチマテリアル対応J35 Proの実機、サンプル展示を行いました。
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また今回は弊社が販売するZEISS社 光学式形状寸法計測3Dスキャナの中で、小部品を簡単に高精度で計測できるGOM Scan1と、幅広い大きさのものを高精度計測できるハンディスキャナT-SCAN hawk 2も展示しましたが、計測実例として、Desktop Metal社 金属3DプリンターStudio System2で作った部品をT-SCAN hawk 2で計測評価した結果を展示しました。下の写真のディスプレイに示されたのが、設計3Dデータとの形状寸法差をカラーマップで、緑色の部分は正寸±0.2㎜以内を示しています。
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3Dプリント品の形状寸法精度は3Dプリンターが決めると思われがちですが、特別なノウハウやパラメータ調整を必要とせず、用意された標準設定でステンレス部品がここまで精度良く出来るのは、Studioプリンターの性能以上に、Desktop Metal社が時間をかけて研究、調整した純正材料と、焼結収縮補正と適切なサポート形状設計を自動で行えるソフトウエア技術が重要な役割を果たすことをお判りいただくのにも良い展示でした。

MBDと3Dプリンティングに共通する効能と課題

上記の展示会を通し、様々な自動車関連製造企業の方々とお話をする良い機会をいただきましたが、東京で2023年10月26日(木)~11月5日(日)に開催中の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」でも報道の通り、ほぼ全ての国内外自動車メーカーがEVのコンセプトカーを展示し、内燃機関から電動化の流れはますます加速し、その影響に直面して新しいビジネス、新しい製品開発製造への課題に取り組まれている方々も多くいらっしゃいました。

また今回の展示会場では、これまでにない大きなブースで、自動車開発にMBD(モデルベース開発 Model Based Development シミュレーション技術を活用した開発手法)を活用推進する展示があり、筆者もマツダ様でのMBD導入の歴史とこれまでの成果とこれからの取り組みについて講演を拝聴しました。

この中で、MBDと3Dプリンティングに共通する効能と課題があることがわかりました。

MBDの効能
・知識の共有 (設計ノウハウや現物で起きる現象をモデル化することで容易に共有できる)
・技術者の技術力向上 (解析と実際が合わないと、なぜかを深く考えるので技術力が向上)
・開発の迅速化 (モノが無いうちにアイデア検証が迅速にできる)
・アイデアの創出促進 民主化 (若い技術者のアイデアでも、モデルによりすぐに検証が出来る)
・情報の流れの円滑化 (設計以外の製造部署、サプライヤとも速く情報共有が出来る)

MBDでは上記の効能を、サイバーフィジカルモデル(現物現象を再現する仮想数値解析モデル)を作ることによって得られるわけですが、3Dプリンティングを使い、製造または使用時に起こる現物現象を「仮現物モデル」で速く検証することの効能も、上の5つとほぼ共通しています。

一方、MBDを自動車開発に使うこれまでの成果の一つとして、実際に作る試作車両数が減ったことが示されましたが、こうなると「3Dプリンターで作る試作品も減るのでは?」と考える方も多いと思います。しかし、例えばMBDで作る解析モデルと物理現象との差を検証するには、「仮現物モデル」による物理試験も多く必要なはずで、そこに時間や人の工数が多くかかっては、MBDの速さの効能を削ぐことになり、3Dプリンティングのスピードがより有効になるとも考えられます。

日本の自動車メーカーにとってMBD活用普及のための課題
・CASE対応のため開発負荷の急増
・サプライヤ中小企業のCAD/CAE導入遅れ
・各部署、サプライヤが異なるモデルを使っており、協働が難しい
背景
日本 企業規模が小さく、高額CADが買えない 使える人がいない
欧米 企業規模大きく投資、導入出来る
中国 中小企業でもはじめから使う前提

マツダ様でも、まず新エンジン開発にMBD導入を決断された背景は、バブル経済崩壊後の経営不振の際、新エンジン開発には30人だけしか残される一方で、厳しい燃費規制や販売店からハイブリッド開発要求対応を課されるものの、社員のやる気も下がり、切羽詰まった状況からの脱却にはMBDしかないと決断されたことに始まり、「従来では出来ない」とされた高い開発目標に最初は「モノ重視」の技術者も抵抗したが、まず成功事例を作り共有し、「モデル化を目指す→メカニズムを理解する→モデル化無しでは不可能だった」という理解を広め、解析を設計者が行えるよう工夫し、若くても、誰でもアイデアを検証出来る「民主化 」を苦労されながら進められたとのことでした。

現在とこれからについては、2015年度より経済産業省主導で「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」を通じとりまとめてきた「SURIAWASE2.0の深化」を目指し、自動車産業におけるモデルベース開発の産学官共同戦略的プロジェクトを民間主体で継承し、全体最適で高度なモノづくりの実現を目的として設立された「一般社団法人 MBD推進センター」により、社内他部署、サプライヤも共通モデルによるMBDが出来るよう、取り組まれているそうです。

日本国内の3Dプリンティングの活用普及の難しさ、背景も上記と共通しており、その解決策も、産学官、競合他社、メーカーとユーザーの壁を乗り越えて協働する、または異なる3Dプリンターや他の工作機械とのデータ交換を容易にするファイルフォーマットや通信プロトコルの整備が有効という点も似ていると思います。

自動車業界以外でも、MBD導入活用流れは急速に国内で広がることは間違いないようです。その中で3次元データ、3Dプリンティングの必要性、役割も変わっていくことを実感した展示会でした。みなさんはそれぞれのお仕事の中でどう実感され、この流れに乗るべきかについてのお考えも、様々な機会を通じてお伺いできればと思っています。

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