Infinite Ideas(ユーザ事例)

限りないアイデアで、新しいビジネスの価値を創造。あらゆる問題に対して、アイデアを柔軟に変化させて答えを導き出す
MSYS(丸紅情報システムズ)

京都大学(後編) 導入事例

MUMPs®、試作から量産に至る幅広い MEMS製造サービスを提供するMEMSCAP社の試作サービスです。標準的なMEMSプロセスを用いる試作として、世界各国のユーザに利用され実績を残 しております。複数ユーザからデザインを集め、同じウエハで一括製造しているので、試作コストを抑え、基礎研究段階で手軽にご利用いただけます。標準サー ビスでは、ユーザは1cm×1cmのデザインスペースにMEMSCAP社のホームページに公開されているデザインルールに従いマスクデータをデザインしま す。Runスケジュールに合わせて作成されたデザインは、丸紅ソリューションズ経由でMEMSCAP社のプロセス工程を経て、約2カ月後に最大15個の チップに仕上がります。
MUMPs(Multi-User MEMS Processes)

Coventor Wareは、MEMSデバイスを生成、モデリング、解析、インテグレーションを実行する4つの製品、Architect・Designer・ Analyzer・Integratorから構成されている、MEMS専用設計解析システムです。開発元であるCoventor社は、1995年に設立さ れ、マサチューセッツ工科大学(米国ボストン)との共同でマイクロマシンの解析シミュレーションを開発し、世界に先駆けてマイクロマシン解析ソフトウエア を商品化しました。Coventor WareはワールドワイドでMEMSとMicro Fluidicsのトップメーカー10社を含む150社以上の企業・研究機関で使われており、注目すべきは大学・教育機関では1700ライセンス以上使わ れています。

▼受講生設計のMEMSデバイス


遂にその日がやってきた。
2006年3月、京都大学吉田キャンパスでおこなわれた『微小電気機械システム創製実習』。設計ソフト上だけでなく、“実際に動く”MEMSデバイスをつくる講義のレポートは以前にご紹介したとおり。
あれから5ヶ月後の8月、受講生によって設計されたMEMSデバイスが完成、発表会が開かれることとなった。
田畑教授が初めて取り組んだMEMSを「つくる体験」、それによって受講生たちは何を得ることになるのか。
「それでは始めたいと思います」
午後1時から4時。
受講生たち、そして田畑教授の想像をも超えた不思議な高揚感を覚える3時間が、始まった。

一抹の不安の中、発表会スタート

ものが動く。
それだけのことで、これほどまでに盛り上がるとは。体感するまではこの場にいる誰もが想像できなかっただろう。
京都市。最高気温36℃。2006年8月9日、盛夏の京都大学の吉田キャンパスに、受講生たちが続々と集まってきた。
「そろそろみんな集まりましたか?」田畑教授の声が響く。
午後1時、『微小電気機械システム創製実習』※の発表会がスタート。
プロジェクターの画面を見るために会場の灯りが落とされ薄暗くなる。正面スクリーンにMEMSデバイスが映し出される。ナスカの地上絵をさらに複雑にしたような幾何学模様である。
『微小電気機械システム創製実習』。これは京都大学が2005年9月に立ち上げた『ナノメディシン融合教育ユニット』という教育カリキュラムの一貫として 設けられた講義だ。京都大学では専攻や分野を飛び越えてあらゆる分野を融合した研究に取り組んでおり、中でも「医学」と「工学」の融合が期待されることか ら設立されたのが『ナノメディシン融合教育ユニット』である。
これまでMEMSの教育には欠けているものがあった。「つくる」体験である。理論を学び、コンピュータを使ってMEMSを設計し解析やシミュレーションを 行ってもその先の「つくる」ことができなかったのだ。理由は製造コスト。MEMSの製造には莫大な費用がかかるため、製造ラインをもった一部の企業などで しか実現できない。
そこで田畑教授が目をつけたのがMEMSCAP社のMEMS専用試作サービス『MUMPs(マンプス)』である。アカデミック価格42万円で、1cm角の 領域を使ったMEMSが実現できる。これだけの領域があれば、MEMSなら受講生すべてのデザインを入れることができる。そのMUMPsを利用して「つく る」体験を実現するべく、『ナノメディシン融合教育ユニット』の一貫として田畑教授が実施した講義、それが『微小電気機械システム創製実習』である。
受講生の多くは社会人だったため、講義は4日間の集中講義となった。MUMPsの設計ルールの習得、設計解析ソフトであるCoventor Ware(コベンタ ウエア)の使い方の説明などで二日半が費やされ、残りの一日半で課題の説明および設計とシミュレーションがおこなわれた。
実は田畑教授がもっとも懸念していたのは、デバイスの設計とシミュレーションに一日半しか費やすことができなかったことだ。シミュレーションを十分できなかったため、田畑教授はこう思っていたという。
『もしかして一つも動かないのではないか──』
この不安の中、発表がおこなわれたのである。

※ 『微小電気機械システム創製実習』は、京都大学ナノメディシン融合教育ユニットの一環です。京都大学ナノメディシン融合教育ユニットは、平成17年度文部科学省科学技術振興調整費 新興分野人材養成プログラムにより開設された教育組織です

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「動いた!」遂に上がる歓声

「それでは最初の方」
田畑教授がマイクを使って名前を呼ぶ。遂にそのときがきた。
今回の実習課題は「細胞マニピュレーション用マイクロピンセット」。つまり、細胞をつかむことができるピンセットをMUMPsで製作するというものだ。使 用できる電圧は最大で50V。なるべく低い電圧で、10ミクロン開いているピンセットの先端がきちんと閉じることが条件だ。受講生たち一人一人に与えられ たのは1mm角の領域。設計したMEMSの大きさはわずか数百ミクロン。肉眼ではその存在すら確認できない。そこで倍率400倍の光学顕微鏡を用意。その 中央にMEMSを置き、顕微鏡で拡大したものを、プロジェクターを通してスクリーンに写すという方法を使って受講生たちに見せることになった。顕微鏡の周 囲には4つの探針が設置されており、電源とつながれている。探針はプローブと呼ばれ、MEMSに電圧を印加するためのものだ。
受講生が試作したMEMSにはパッドと呼ばれる四角の接続部があり、そこにプローブを当てて電圧を印加する。すると受講生が設計したピンセットが動くはず、である。
名前が呼ばれた受講生は、前に出て設計意図を説明。その後、いよいよプローブがパッドに当てられ電圧が印加される。
一番手の受講生がマイクを握る。
設計意図の説明が終わると、プローブがパッドに当てられる。その間沈黙が流れる。電源のダイヤルを回す。電圧が上げられる。
「1V…2V…3V…」
さらに電圧が上がる。ピンセットはピクリともしない。
「20V……」
「──う~ん、動きませんね」
結局動かない。
2人目。「設計しているときにエラーが出たのでちょっと心配しています」。電圧がかけられる。1V、2V、3V……。動かない。
「もっとガンと電圧かけましょう」
「今14V、今16V……あれ、少しばかり動いていますかね」
「え、どこ?」
動いたのか動かなかったのか。微妙だった。
3人目。
「自信のほどは?」「20%ぐらいです」
今度こそ動くのか。パッドにプローブが当てられる。皆、電圧がかけられる様子を一心に見つめている。
電圧が徐々に上げられる。反応はない。そのときだ。
「動いた!」

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“立ち上がる”挑戦に息を飲む会場

会場は大きな拍手に沸いていた。ピンセットがピコピコと動いたのだ。それも勢いよく。
「きれいに動いているね~」。会場の興奮もなかなか冷めない。田畑教授も喜んでいることがわかる。「よかった、よかった」
そしてその後、会場は一気にヒートアップしていく。
実習課題はピンセットの先端が閉じることを条件としたが、実は田畑教授はもう1つ課題を出していた。ピンセットの先端を基板に対して垂直方向に持ち上げる ことができたら、さらに評価を高くする、というものだ。これはピンセットを開閉するよりもさらに高い技術が求められる。それにチャレンジした受講生がい た。
「とにかく持ち上げようと思いました。ピンセットでつまむのは誰かができるだろうから、自分は持ち上げることにしようと。Coventor Wareのシミュレーションでは上がったので、持ち上がらないはずはないと思います」
プロジェクターに設計意図が映し出される。その最後にはこう力強く記されていた。
『立ち上がれ!』
上がるのか。持ち上がればピントが合わなくなってくるはずだ。
ダイヤルをつまむ。電圧がかかる。電流が流れる配線部分が発熱して光を発する。
さらに電圧が上がる。設計した受講者、田畑教授とも食い入るようにしてプロジェクターで映し出された画面を見つめる。変化はない。
「あ、折れちゃいました」
配線の一部が熱によってグニャっと曲がってしまった。
会場から思わずため息が出る。
「でもまだピンセットがあります」
受講者は、ピンセットを持ち上げるための配線とピンセットを動かすための配線を別々に設計していたのだ。「ピンセットが動く自信のほどは?」「そっちはありません…」
3V、5V…10V…。動かない。「もっと上げてみますか」。上げ過ぎると配線部分が焼き切れる。ところが、「お、お、お!」
会場から思わず声が上がる。ピンセットが動き始めたのだ。
「動きましたっ」
動かなければため息が漏れ、動くと「すごい!すごい!」と大歓声が上がる。3時間の間、受講生たちはずっと一喜一憂し続けた。
「とにかく、いくつか動いてほっとしました。実は、もう気が気じゃなかったんです」。
終了後、田畑教授はほっとした笑みを浮かべた。そして強く確信していた。受講生たちが何を得たか、である。

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受講生たちが得たもの“動力”

この日の2週間前、田畑教授はこんな体験をした。
「実験室で受講生が設計したMEMSを1つ動かしてみたんですね。そのときうちの助手がそれを見たのですが、すごく興奮していたんです」
今回の発表には、受講生以外に多くのギャラリーがいたが、ギャラリーたちも一様に不思議な高揚感に包まれていた。
学生が設計したデバイスをつくり動かす。そのことがなぜある種の興奮と感動を呼び起こすのか。
「メカニカルなものが動くことは感覚的に理解していても、それが実際に動くのを目の当たりにすると、違うインプレッションがあるのでしょう。MEMSの2 番目のMは、Mechanicalの”M”。目で見て動く部分をさします。ものづくりの基本は、原理原則を理解して、できた結果を見て、動くことを喜ぶ、 動かないことに反省し、フィードバックを得ることです。」
そして、田畑教授はMEMS教育のさらなる拡充を図り、大学院の講義に今回の実習と同じような方針で「つくる」体験の講義をすでに取り入れている。
「2007年10月の予定ですが、京都大学と香港科学技術大学の共同でインターネットを通じて学生たちが同じ講義を受けるプランもあります。双方の大学の 学生たちでチームを組ませて、出された課題に対してどう設計するのか議論してもらおうと考えています。日本の学生は仕事を国内にしか想定していないような ところがあるので、海外の学生と議論を重ね、国際的な視野が広がってくれればと期待しています」
今回、発表会で14名中8名のMEMSデバイスが動いた。発表終了後、受講生全員に最優秀者を投票してもらったところ、基板から立ち上がることに果敢にチャレンジした受講生が1位に選ばれた。
「今 回の実習において、さまざまな経験を得ることができました。教える立場の我々にとっても、このような経験の積み重ねを、これからの『よりわかりやすい講 義』に生かしていこうと思います。そして、受講生にとって何より大切なのは、自分の手でつくったものの成果を見ることで、次へのエネルギーをもらうことな のです」
MEMSデバイスをつくり、それを実際に目にすることで受講生たちが得たもの。それは、さらに進化し続けようとする“動力”だった。
大学院でもMEMSの「つくる体験」がおこなわれ、2006年秋には『微小電気機械システム創製実習』の2回目の講義がスタートする。今、京都大学で“動力”を胸に宿した若者たちが、少しずつ、そして確実に巣立っている。

1956年9月21日生
1981年3月  名古屋工業大学大学院修士課程修了
1981年4月  (株)豊田中央研究所入社
1996年4月  立命館大学理工学部機械工学科助教授
2000年4月  同教授
2003年9月  京都大学大学院工学研究科機械工学専攻教授
2005年4月  京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻教授
この間
2000年9月~12月 ドイツ、フライブルグ大学客員教授
2001年1月~3月  スイス、連邦工科大学客員教授

主として、シリコンマイクロマシニング、X応用微細加工技術、薄膜の機械的物性計測、シリコンマイクロセンサ、MEMS、マイクロシステムの研究に従事。京大では機械・電気・化学・光・バイオなどの機能要素をマイクロメータからナノメータの微小領域において統合することによって、新規でユニークな機能を発現させるマイクロ・ナノシステムを構築するためのナノシステム統合工学の確立を目標とし、三次元微細加工、ナノアセンブル、薄膜機械物性評価、マイクロ・ナノシステムなどに関する研究に取り組んでいる。

Journal of Micro Electro Mechanical Systems およびSensors and Actuatorsのeditorを務めると共に、International Conference of Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)をはじめ多くの国際会議の組織委員,論文委員を務める。

1987年 日本ME学会研究奨励賞受賞
1991年 電気学会論文発表賞受賞
1993年・1998年 R&D100Award受賞
2002年 センサ・マイクロマシンと応用システムシンポジウム最優秀ポスタ賞受賞
2004年 立命館大学渡辺三彦発明賞受賞

電気学会、日本機械学会、IEEE Seniorメンバ
工学博士

・趣味
2年前よりボイストレーニングを開始。その理由は「思う存分声を出すのが気持ちよさそうだったから」。京都市内の音楽教室に通い、最初は発声練習が中心だったが、今では田畑教授が大好きなサイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』を歌っている。
「講義のときに、後ろまで声が届くようになったと思う」と副産物も生まれている。


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