グローバルなものづくりを加速する高速かつ安全な大容量データ転送【ナカシャクリエイテブ/長尾 恭世/松野 竜一/住田 浩典】

日本のものづくりを語るときに
トヨタ生産方式は外せないキーワードの1つだ。
社会基盤に関わる情報加工分野で事業を展開する
ナカシャクリエイテブは、トヨタ生産方式を源流とする
NPS(NAKASHA Profit System)を開発し
日々カイゼンに取り組んでいる。
データという目に見えない成果品を扱う情報産業の特徴を活かし、
工程を可視化することで問題点を顕在化する。
時間の無駄を排除するべく大容量データの高速転送をベースに
距離の壁を越えたワークスペースも実現。
「人間を大切にし、ものを大切にする」
グローバルなものづくりの最前線を取材した。

左から「長尾 恭世氏/住田 浩典氏/松野 竜一氏」

ものづくりの舞台は工場ではなくデジタルの世界

「ものづくりは人づくり」。ナカシャクリエイテブの長尾恭世氏は何度もこの言葉を繰り返した。同社の業務カイゼンの根幹となるNPS(NAKASHA Profit System)の基本理念は「人間を大切にし、ものを大切にする」である。
NPSの源流となるTPS(TOYOTA Production System、トヨタ生産方式)は製造業だけが導入しているとイメージしている人が多いが、情報産業でTPSをベースとしたカイゼンに取り組むのは珍しいケースといえるだろう。NPSは経営の効率化を目指しており、対象範囲は技術部門にとどまらず営業や管理部門まで全社に及ぶ。また納品する商品がモノだけではなくデータが多いという点も特徴だ。
ナカシャクリエイテブの本部ビル応接室には、同社が作成した屏風などのレプリカが展示されていた。
「1960年の創業当時は写真技術を活用した設計業務の効率化や、マイクロフィルムによる大量・大型図面の保管管理といった業務が中心でした」と長尾氏は話す。
技術革新や社会構造の変化によりアナログからデジタルへの急激な転換が進む中で同社の事業も大きく変化していった。「カメラやフィルムをパソコンやスキャナに置き換え、さらにGIS(Geographic Information System:地理情報システム)の調査設計、システム開発/IT、画像処理の3つのコア技術を発展させ、お客様のご要望にお応えすることで幅広い分野に事業が広がっていきました」(長尾氏)
同社には3つの事業の柱がある。1つめは電柱やガス導管といったライフライン関連施設・設備の管理に関わる事業。例えばガス導管では現地の測量、水道や下水など他埋設物の状況の調査を実施し敷設するための設計を行っている。2つめは鉄道、道路、航空など交通・運輸の分野で扱う専門性・機密性の高い情報を管理する事業。3つめが文化財や企業アーカイブに関する調査、整理、保存の事業。文化を守り後世に伝えていく役割の一端を担っている。
同社の事業は社会基盤に関わるものが多く常に高い品質が求められるが、その一方で発注から納品までのリードタイム短縮のニーズも大きい。2005年、同社は品質とスピードの両面でお客様の声に応えるべく、同社のものづくりの支柱となるReCoIM(Real time Computer Integrated Manufacturing System)を開発し導入した。データという目に見えない成果物を扱う情報産業の特徴を活かし、ITを使い工程を可視化することで問題点を顕在化する。ものづくりの舞台は工場ではなくデジタルの世界だ。本社に隣接するNPSの研究実験ルームNPS-LABOでどのようなカイゼンを行っているのかを見ることができた。

長尾 恭世氏

工程の見える化により大きな遅延が起きる前に事前に対処

NPS-LABOではガラス張りの向こう側で若いスタッフがモニターに表示された画像を見ながら作業していた。天井からは検証Aライン、検証Bラインなどのプラカードが下がっている。長尾氏はNPSを支えるWeb版生産効率化システムReCoIMの画面を見せてくれた。各工程の進捗状況は色分けされており遅延が一目でわかる。赤色は計画とのギャップが大きく注意喚起が必要となる。
以前は情報加工における作業の進捗状況をリアルタイムで把握するのは難しい面があった。作業の多くが担当者のパソコンの中で行われているからだ。1日の終わりに進捗状況を確認していたが、それでは遅延への対処が後手にまわってしまう。また進捗度合いは専門知識のあるスタッフにしかわからなかった。このため、同社では各工程を“見える化”するためにスキャニングやCAD設計などで1個作業が終わるたびに担当者が画面上の「完了」ボタンをクリックする仕組みをつくった。工程ごとに1日の生産能力の基準値を設定し計画をつくり、遅延状況を視覚的に表示していく。
いまは経営者や営業など誰でも遅延状況をリアルタイムに把握できるため、大きな遅延を引き起こす前に対策を打つことが可能だ。
作業効率の向上では全体最適の視点が大切になると同社の松野竜一氏は指摘する。「例えばスキャニングの速度をあげても次の工程のCAD設計が対応できなければ意味がありません。完成品を早くつくるということが重要です。途中過程は何も価値を生み出しません。スキャニングしたままデータが止まっている時間は停滞なのです」
業務カイゼンでは施策をつくる側と実行する現場との認識の共有も重要なポイントとなる。「NPS-LABOで各部署のスタッフに新しい生産技術を実際に試してもらい、効果があったものを現場に展開していきます。技術習得に加え、納得して現場に持ち帰るため導入も容易になります」と同社の住田浩典氏は話す。
NPSの導入により品質に対する考え方も変わってきたという。検品を行い、不良品を見つけることに力点を置くのではなく、不良品のでない工程生産の設計を追求している。
「この無駄をなくせばもっと生産性が高くなる」、カイゼンを行う中で問題を考える力を養うことが大切だと長尾氏は思いを語る。「ものづくりはひとづくりです。NPSは業務カイゼンと人材育成の両輪で進めています」
同社はNPSのもと着実にカイゼンに取り組むことで大きな成果を上げている。デジタル地図制作ではリードタイムを100日から34日に短縮、停滞期間も30日から2日に短縮し、高い品質を維持しながら業務の効率化を図っている。
順調に進んでいたNPSによるカイゼンだが、データの大容量化とグローバルなものづくりが新たな時間の無駄を生み出していた。

松野 竜一氏

長距離、低回線品質で大容量データの安全かつ高速転送を実現

NPSが大切にしている考え方に、『人の「限りある時間」を1秒でも無駄にしない』というものがある。時間を無駄にしない観点から、生産拠点間での画像や動画などの大容量データのやりとりが大きな課題となっていた。
特に問題となっていたのが中国南京市にある生産拠点との間のデータのやりとりだ。「南京市は時間帯によってネットワークのスピードが異なるため、大容量データを扱うと送受信できない事態が発生していました。成果品ができているのにも関わらず、回線品質が低いために停滞を引き起こし、リードタイムをいたずらに延ばしている状況にありました」(松野氏)
従来、同社は2GB(ギガバイト)のデータ転送システムを使って圧縮や分割など四苦八苦しながらデータのやりとりを行っていた。近年、大容量データを取り扱う頻度が増えており、従来の手段では生産拠点へのデータ供給が不可能になりつつあり、ビジネスチャンスを失う危険性も出てきた。
「土木構造物の点検に使うために動画情報から画像を切り出し、クラックやひびなどお客様の求める情報を判読して見やすく加工する仕事の依頼がありました。中国の生産拠点でデータ加工を行うためには30GBから50GBの動画データのやりとりを行うことが必要です。従来の2GBのデータ転送能力と中国の低品質回線を考えるとあまりにも効率が悪い。ある会合でたまたま一緒になった丸紅情報システムズに相談したところ、大容量・高速データ転送ソフトウェアSilverBulletをご紹介してもらいました」(松野氏)
現在、多くの通信に用いられているTCP(Transimission Control Protocol)は確実にデータを受け渡ったことを通知するACK(確認応答)を待つ間、次のデータを送らないため伝搬遅延が発生する。SilverBulletは独自プロトコルにより確認応答を待つことなくデータを送り続けることが可能で、長距離や低回線品質でも大容量データの高速転送を実現する。
同社はSilverBulletの安全性にも着目した。「当社が扱うデータは機密性の高いものも多く、SilverBulletは米国国家安全保障局で採用されている高度な暗号技術などの利用により、セキュアな環境のもとでデータのやりとりができる点も高く評価しました」(長尾氏)
グローバルなものづくりにおいて距離の壁を越えたワークスペースを容易に実現できることもSilverBulletの大きな魅力だ。国内や海外からアクセスを許可された人たちがワークスペース上でファイルを選び、ダウンロードし編集してアップロードする。同社は導入にあたってNPS-LABOでSilverBulletの実証実験を行った。
「丸紅情報システムズのサポートも受けながら、NPS-LABOと中国の拠点との間で30GBのダミーデータを使って検証を行いました。30GBのデータを分割することなく一括送信でき、送信時間は4時間半でした。従来の手段では一括送信は不可能です。圧縮分割し送信した場合、5倍以上の時間がかかったでしょう。またこれまで南京市は時間帯によってデータが送れないこともありましたが、時間帯を問わずデータのやりとりが行えるようになりました。生産性の面で非常に大きなメリットがあります」(松野氏)

住田 浩典氏

お客様とともに無駄をカイゼンし未来を創造していく

同社は検証後、すぐにSilverBulletの採用を決断し2016年1月からReCoIM 上で利用を開始。SilverBulletの導入効果には効率化に加え、安心感も大きいという。「従来の手法では回線障害やシステム障害などにより回線が瞬断した場合、最初からやり直さなければなりませんでした。SilverBulletは回線復旧後に自動かつ前回の続きから転送を再開できます。夜に中国にデータを送って帰社して、翌日に出社するとデータが送れていなかったというケースも以前は多くありました。いまはデータが送ることができているかどうかといった不安から解放されました」と松野氏は笑顔になる。
圧縮分割が必要なくフォルダーに入れるだけの使いやすさも好評だ。ある事例で日々3回のデータ送受信を約2か月間実施したところ、これまではデータ管理だけで想定1,800分の時間を要していたが、いまは管理時間が900分に削減された。
中国の拠点でも「SilverBulletがないと困る」と話しているという。これまではデータのダウンロードに半日かかったり夜しかできなかったり、データのやりとりが作業時間を圧迫していたからだ。品質と効率の向上を目的に中国の拠点から作業途中のものを送ってもらい、品質をチェックしてフィードバックする試みも始めている。
NPS-LABOは同社の業務カイゼンはもとより、お客様とともに無駄をカイゼンしていく役割も果たしていると住田氏は話す。「成果品の納品は終わりではなくお客様からすれば始まりです。長年培ってきた知見と経験を活かし、お客様とともに研究ブースで検討を重ね、お客様とともに未来を創造していくパートナーとしての責任をしっかりと果たしていきたい」。
「創造(クリエイティブ)」をキーワードにものづくりの可能性が大きく広がっていく。

導入された製品情報

SilverBulletについて

SilverBulletはインターネットを通じて大容量データを遠距離間や回線品質の低い地域でやり取りする際に、従来のTCP通信やFTPに比べて極めて高速かつ安全に、そして安定的に行うことができるソフトウェアです。多くの企業は容量データの転送にフリーのソフトウェアの利用を禁止しています。また画像や動画など企業で扱うデータの大容量化は進む一方です。SilverBulletはこれまで諦めていた長時間の転送業務を可能にし、手間とコストを大幅に削減。企業の業務効率を格段に高め、サービスや競争力の向上に寄与します。

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