新規加熱冷却装置を用いた電子基板のDIC・温度分布同時測定

背景と目的

近年進みつつある携帯機器の5G(第5世代移動通信システム)化や車両の自動運転化を支える、最先端の半導体パッケージや実装基板は、従来と比較しデータ転送量が多く処理速度が速いため、消費電力や発熱の増大を招くことがあります。さらに、搭載される電子機器は、例えば機器の負荷変動・ON/OFF周期・昼夜サイクル・季節的変化など、様々な環境条件にさらされることにより、多くの熱的ストレスを受けています。
そのため熱負荷による反りが要因となる接合故障が発生する場合があり、例えばリフロー中の過度の反りは集積回路の端部がボードから持ち上げられることにより、はんだ接合の不具合の原因となる可能性があります。 そこで、設計段階からはんだ接合の信頼性を定量化するために、昇温・冷却時のパッケージや実装基板等の反りなどの熱変形と、温度上昇、温度分布を正確に把握する重要性が年々高まっています。

パッケージや実装基板の反りの計測手法としては、デジタル画像相関法(DIC: Digital Image Correlation)を用いた全視野3次元熱変形計測(3D DIC)や1)、非接触の温度分布計測法としてサーモグラフィカメラによる計測方法が提案されています。
一方で加熱・冷却のために恒温槽やリフロー炉を用いる場合、3D DICでは観測窓越しの測定をすることとなり、光学系の校正のために測定上の制約が残されていました。また温度分布測定においても、赤外線の長波長側を透過する特別な窓材、または短波長側を検出するカメラを使用する必要性などの課題があり、多くの場合では熱電対での測定に依存していました。したがってこれまで恒温槽の観測窓ガラス越しの計測においては、評価の効率性・柔軟性・コストなどの観点で、画像計測を用いた熱変形と温度分布の同時計測には課題が残されていました2)

本事例では、エスペック株式会社様により新しく開発されたスポット加熱冷却装置を用いて、窓のない状態で3D DICシステムであるARAMISによる電子基板の熱変形を測定し、同時にサーモグラフィカメラで温度分布を測定しました。温度分布は3D DICにより得られた変形メッシュデータに投影され、変形状態と温度分布を同時に可視化した事例をご紹介します。

計測条件

  • 使用システム :
       3D DIC測定 : ARAMIS 3D Camera (600万画素) / MV60 (GOM社製)
       温度分布測定 : VarioCAM HD head780 (30万画素) (Infratec社製/日本レーザ様ご提供)
  • 試験装置 :スポット加熱冷却装置MTA-170 (ESPEC社製)
  • 計測対象サンプル :Raspberry Pi 4 Model B (Fig. 1)
  • 対象温度条件 :-30℃~150℃

各システムの設置状態はFig.2に示したような配置で試験を行いました。

測定対象および評価対象部位
Fig.1 測定対象および評価対象部位
試験・測定風景
Fig.2 試験・測定風景

計測結果例

対象部位が150℃に達した時の温度分布はサーモグラフィによりFig.3のように得られました。
恒温槽を用いる場合ではサーモグラフィによる測定には特殊な窓を用意する必要がありましたが、本事例では窓なしで150℃まで短時間で昇温し、温度分布が取得できました。

150℃のときのサーモグラフィマップ
Fig.3 150℃のときのサーモグラフィマップ

この時の基盤全体の面外方向の変形量は3D DICによりFig.4のように得られました。
右の図の赤い部分が手前に、青い部分は画面奥に沿っていることを示しています。
これを形状として強調表示した3D図が左の図です。

3D DICによる面外変位分布(右)と強調表示図(左)
Fig.4 3D DICによる面外変位分布(右)と強調表示図(左)

ARAMISソフトウエアではサーモグラフィカメラにより得られた温度分布を3Dメッシュに投影し表示することができます。 Fig.5の画像はこの計測対象の基盤の動作保証温度上限である50℃の時の温度分布を示したものです。

DIC測定結果に投影表示された50℃時点のサーモグラフィマップ
Fig.5 DIC測定結果に投影表示された50℃時点のサーモグラフィマップ

この分布から、以下の2点に着目して詳しく評価を行いました。
① 動作中のSoC温度が周囲に比べ高いため、面外変形を評価し基盤の反りと併せて現象を検討
② 右下のWireless Bluetooth部品表面の局部的に温度の高い部位について、ひずみを評価



① SoCについては、-30℃時点を起点に、昇温によって表面の温度分布および面外変形量がFig.6のように得られました。

-30℃~120℃のSoCの温度分布(左)および面外変位分布(右)
Fig.6 -30℃~120℃のSoCの温度分布(左)および面外変位分布(右)

同一ポイントにおける温度と面外変位について、定量的に評価しました。使用したポイントはFig.7に示すSoC中心付近及び端部の2点です。グラフの横軸はいずれも装置の設定温度とし、それぞれのポイントの面外変位量およびサーモグラフィにより取得された温度を示しています。

面外変位@ARAMIS
温度@サーモグラフィカメラ
Fig.7 130℃時点のSoCの面外変位分布とポイント測定箇所、および各ポイントの温度ごとの変位と温度の推移

② Fig.8に示す局部温度勾配のある部品に関するひずみ分布を観察したところFig.9の結果が得られました。
まず温度分布を確認すると以下のような状態が確認できました。Fig.8の画像は130℃のときのものです。

130℃のときのWireless Bluetooth部品表面温度分布
Fig.8 130℃のときのWireless Bluetooth部品表面温度分布

局部的な温度勾配が確認できることから、次に表面のひずみ分布を確認しました。ひずみはY方向ひずみ(縦方向)です。温度ステップごとに見るとFig.9に示す通り、50℃を超えたあたりから、温度勾配のある部位の境界にひずみが集中し90℃を超えると顕著になっていることが分かりました。

130℃のときのWireless Bluetooth部品表面温度分布
Fig.9 Wireless Bluetooth部品表面の各温度ステップにおける縦方向ひずみ分布(青:圧縮/赤:伸び)

従来法に対する当手法のメリット

① 当手法は恒温槽に比べて加熱・冷却速度が速いことに加え、リアルタイムにサーモグラフィで供試体の温度分布が確認できるため、試験時間の大幅短縮と効率化が見込まれます。

② 3D DICの測定においては、窓越しのキャリブレーションが不要になります。
これにより準備工数の低減・対象設置環境の自由度の向上・窓を介することによる光学系への影響の排除といった効果が期待されます。

③ サーモグラフィの測定においては、測定温度域の制約の排除・高価な窓素材または高価なカメラの準備が不要になるといったコスト面の効果が期待されます。

④ ARAMISソフトウエアでは温度分布と面外変位分布が同時測定でき、対象の同一箇所の変位と温度の測定結果を一つのソフトウエアで同時に評価することができます。

当事例に関連するリンク

ESPEC/スポット加熱冷却装置
https://www.espec.co.jp/products/env-test/mta/

日本レーザー/Infratec社製サーモグラフィカメラVarioCam HD headシリーズ
https://www.japanlaser.co.jp/product/infratec_variocam-hd-head/

参考文献

1) 岡本圭司ほか、「デジタル画像相関法を用いた3次元熱変形計測装置」,エレクトロニクス実装学会誌,Vol10,No.7,2017

2) 電子情報技術産業協会 半導体パッケージ技術小委員会、「代表的熱変形測定方式の比較評価結果」、電子情報技術産業協会技術レポート、JEITA EDR-7334、2008

3) 菊池郁織ほか 「新たな冷却加熱方式を用いた熱負荷試験中の電子基板の3次元熱変形およびサーモグラフィカメラ計測」、エレクトロニクス実装学会 MES2021、21B1-3, 2021

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